12月1日Arystar Krory the 3rd お誕生日企画  ver.2008

 

 Refl of Valkyrja 

  
  
  

  ただいまである!
  ふう…
  あたたかい。生き返る気分である

  

任務から戻ったばかりの私は、談話室のストーブの前に立ち、かじかんだ手をかざした。炎の熱で指先に血がめぐり、じんわりと感覚がよみがえってくる。
近くにいたリナリーが、すぐさま熱々のコーヒーをマグカップに注ぎ、手渡しながら
「お帰りなさい」とニッコリ笑ってくれる。
心地よいコーヒーの薫り…
温かく頬にあたる湯気に 今までの緊張感も緩む。
(なによりこうしてふたたび、みんなにあえた…)
「お帰りなさい、クロウリー」
「お疲れ!クロちゃん」
「お疲れ様でした。クロウリーさん、すごく寒かったでしょう」
談話室にいるアレンやラビやミランダも声をかけてくれる

  

  平気である、寒さには強いのである

  

胸を張って私は笑う。
(もっと寒い場所に…
本当に寒い場所に私は居たことがあるのだから)
  

「今回の任務はどこまで行ってたの?クロウリー」
リナリーの質問に笑顔で答える。

  

  ヘルシンキの小さな港町まで。
  結局イノセンスは見つからなかったであるが…
  すごいところだったである。海が沖のほうまで凍りついていたである
  漁師さんの釣りあげた魚が 
  その場で凍ってしまうほど気温が低いのであるよ
  そうそう、夜中にオーロラが見えたである!
  夜の闇に紅や翠や、言葉では言い尽くせない色がきらめいて
  漆黒の衣に宝石をまき散らしたように
  とってもきれいだったである。みんなにも見せたかったである

  

「オーロラ?うわあ。みてみたいなあ」
目をキラキラさせて話を聞いてくれるリナリー。
「魚が凍っちまうんさ?うひぇー。オーロラは見てみてえけど、聞いただけで寒いさ、ブルブルブル」
大袈裟に身震いして、皆を笑わせてくれるラビ。
「でも、全く収穫なしじゃ大変でしたね、くたびれたでしょう」
労いの言葉を投げてくれるミランダ。
(みんなみんな大好きである!!)
でも、口には出さず、私は穏やかに応える。

  

  むしろ元気であるよ、途中たくさんアクマの血を吸ったであるから
  それに
  アレンが作っておいてくれたゲートのおかげで、
  移動がだいぶ楽になったし…

  

今度はアレンが笑う。
「いやあ…クロウリーにそう言われると恐縮します」
「そのぶん アレンがこき使われてるけどな」
「ラビってば。…そんなことないですからね、クロウリー。
それより、今回の任務って、向こうでファインダーと合流するまで単独だったんでしょう?コムイさんから聞きました。
こういっちゃなんですけど、クロウリー一人で大丈夫かなって。
ホントは僕不安だったんです。あ…少しだけ、です!でも心配しすぎでしたね」
いつもいつも、私を心配してくれる、アレン。
私を勇気づけてくれる小さな守り神
大切な盟友(ともだち)…
アレンの言葉に、私は少しおどけるように見栄をはる。

  

  ふ、大丈夫に決まっているであろう。
  楽勝だったである!
  わたしだってちゃんと一人で何でもやれるんである。
  だいたい アレンは心配しすぎであるよ。

  

すまないアレン。私はちょっとだけ嘘をついている。
本当は、とても不安だった。
人には言えない失敗もあった。
危ない目にもあったし。
宿のベッドで、いつものように悲しい夢も見た。
でもまあ、それは黙っておくことにしよう。
アレンを心配させたく無いから。

  

「そうですね。すみません。でも、任務が早くすんでよかったですね、明日はゆっくりと本部に居られそうじゃないですか?」

  
  
  
  
  
  
  
  

  …明日?

  
  
  
  
  
  
  
  

「ええ。だって」
皆の笑顔が私も見つめている。

  

「だって明日は、あなたの誕生日ですから」
「みんなでお祝いのパーティをするからって、任務に出る前に言ってたでしょ?リーバー班長も楽しみにしているって。科学班も」
「神田さんや、マリさんや、チャオジーくんや、それに元帥さんたちも参加出来るそうですよ」
「じじいも顔出すっていってたさ。とりあえず居るやつは全部くるんじゃねえの?なんせ去年は何にも出来なかったから、コムイがみーんなに声かけてるんさ」
「うふふ、なんだか盛大なパーティになりそうだね、よかったねクロウリー」
「あはは…リンクもきますよ。ケーキ担当だっていってました。ジェリーさん、今から大忙しですね。楽しみだなあ。きっとごちそうがいっぱいー」
「アレンさんたら…」

  

みんなの声が少し遠くに聞こえた。
頭の中がしびれてくる。
胸が切なくなって、指の先まで小さな痛みでしめつけられた。
とっても幸せで
自分がなんだか小さく思えてきて…
自分の立っている場所が、なんだかとても
温かくて
壊れそうで…
  
  
「あ、…れ?クロウリー」
「どうしたさ?」
「わ、な、な…なな、なんでまた泣くんですか!」

  

  え?
  な、泣いてなんかないである
  (ぐしぐしぐし)
  な、なんであるか?止まらないである
  は、ははは
  恥ずかしいである
  ちょ、ちょっと顔を洗ってくるであるっ!

  

明かりの消えた暗い水場で、
蛇口をひねって、冷たい水をすくい、ざぶざぶと顔を拭う。
熱を持ったまぶたが少し冷えて、私は落ち着きを取り戻す。

  

顔を上げると、鏡の中に、私と同じ顔をした男が見つめている。
かつての悲しそうな目は気のせいか、少し鋭くなって、
白い前髪が増え、ちょっとやせたが、
相変わらず子供のように泣き虫な私が 覗き込んでいる。

あの頃から、ちっとも変われない私が。
ほんの少しだけ、変わることが出来た私が。

  

  強くなりたいである
  もっともっと
  強く

  

  優しくなりたいである
  もっともっと
  ヤサシク

  

  みんなを守るために
 (なればいいじゃない…あんたなら、きっと…)

  

この胸のどこかで、あの人がささやいてくれる。
私は、その声をしっかりと抱えて、足を踏み出す。
暗い廊下を抜けて、あたたかな部屋へ。
仲間の居る場所へ。
  

  

私の
終いの住処へ。

  
  
  

<ENDE>

  
  
  
  

Refl of Valkyrjaとは、オーロラのこと。オーロラは真に勇気ある戦士の守り乙女ワルキューレの鎧の反射だといわれ、オーロラの紅色は戦士が戦いで流した血色だといわれているそうです。