痛むほど冷えきった躯(からだ)

むしろ

今はこのままでいい

痛みこそが

生屍の苦悶をやわらげてくれる

かろうじて立つことができる

  

先に

城の外で待っていてくれないか・・・?

旅仕度をしてくるである

 

 

DEADLY WALK  (ヨルヲアルク)

 

 


目を閉じても歩くことのできるなれた廊下

闇が陽光のように揺らめいてあかるい

エリアーデとひきかえに

絶望を覗き込むことのできる獣の瞳を手に入れて

私はいったいこの先何を見つめようというのだ

  

ふとたちどまり、後ろを振り返る

なんども何度も振り返る

エリアーデがいるような気がして

けれど・・闇だけがそこにあふれている

その先にも、どこにも、永遠に


 

自室のドアをあける

乾いた衣服を身につけ

一番丈夫なマントをはおる

重苦しい銀の枷を腕に架せる

他に私の持ち物などない

 

 

漆黒の回廊に、残骸が一切れ落ちている

エリアーデの千切れた帽子・・

あなたはここで戦ったのか

私をまもるために

あるいはころすために

わずかに残る香しい髪の匂い

あなたがここに在ったという証

すでに無いという痕

  

階段をのぼり

エリアーデの部屋へたどりつく

扉をノックし心臓をこわばらせる

返事を待つ自分を恐怖し

自らがドアをあけることを嫌悪する

部屋にはエリアーデの息がみちていた

エリアーデの服

エリアーデの口紅

エリアーデだけが、無い

 

帽子の切れ端をテーブルに起き、そっとドアをしめる

なにも手にすることは許されない

ここに在るものはすべて置いていかなければ

だって

一つでも欠いたら

きっとエリアーデが困るだろうから

 

 

いや、ひとつだけ

たった一つだけ持っていくことを許してほしい

エリアーデ

・・・この私のからだ

神に祝福(のろわれ)た、この躯を

あなたによって死に

あなたによって蘇し

あなたのすべてを貪ることで獲たこの血と骨と肉

 

この私の躯は、あなたでできているのだ

城が燃え上がる

漆黒が深紅に侵される

私が、あなたと、混じりあう

他にはなにもいらないと思っていた

だからこれからも、いらない

エリアーデ

私はあなただけを抱えていく

どうか

どうか、それだけを許してほしい

 

 月が地平に傾きながら光に飲み込まれていく

陽光の中に、少年が立っている

闇を見とおす目には痛むほど眩しく

涙があふれてくる

けれど

今はどうか

こ の ま ま で い さ せ て く だ さ い

いつか

とおい いつか

この瞳で光を見据えるから

 

  

  

 

はは・・・

何であるか その顔は

死んだかと思ったであるか?

大丈夫である

 

 

 

<End>

D.Gray-man 5巻より一部引用

22008.06.13