朝靄の立ちこむ早朝。
出かける時と同じ慎重さで、城のふもとのはるか彼方の森に降り立ったあたしは、
少し大きい荷物をわざと重そうに抱えながら二本の足で歩いていく。
アレイスターは、私が何時戻ってもいいように、ずっと城の窓から見ているかもしれないから。

でも、ちがった。
城の城門のすぐ下に人影がみえた。
擦り切れたマントをかぶった、背の高い男。
独特の白い髪が、遠くからでもわかる。
「アレイスターさま?」
あたしは、本当に少し驚いて、足を速めた。
なに?
この男、ずっと外にいたわけじゃないわよね?

あいつは私の姿を見つけると、ぱっと顔を輝かせて、走りよってきた。
「エリアーデ!!!おかえ・・・うげ」
(なんでそこでころぶのかしら)
「・・っつ・・・お、おかえりエリアーデ!

あいつの、天に登るほどうれしそうな顔をみて、あたしはほんのちょっと笑いたくなった。
でも、少しがまんして、ゆっくりそによると、あいつの体中についた泥とコケを払ってやる。
「大丈夫ですか?アレイスターさま。
まさか、ここでずっとお待ちになっていたのですか?」
あたしは、驚いたようにそう言うと(実際少しあきれていたし)、
あいつは自分のしたことを恥ずかしくおもったのか、顔をまっかにして首をふった。
「え?いや・・・はは・・そんなことは。
帰りは朝といっていたので、ずっとではないである」
うそ。
あれからずっと、ここに出てきてまっていたんでしょ?
唇が真っ青になって、体中が冷えきっているわ。
体のふるえがまだ止まっていないじゃない。
髪の毛だって、夜露で濡れているし
それに、途中で不安になって、何度も泣いたでしょう?
目は真っ赤だし、鼻水もでてるし

あは、
あはは。
あんたってほんとうに・・・ダメなおとこね。

 

 

「約束通りお菓子を買ってきましたわ。
焼きたてですのよ。
それに『もうひとつ』おみやげがありますわよ」
「・・なんであるか?」
子供のように興味津々で、目をまるくして、あたしを覗き込むあいつ。
「まだ秘密ですわ」
そういうとあたしは、あいつのその頬に両手を添えて、
冷えきった唇に 軽くキスをしてやった。
驚き過ぎて、気絶しそうな、あいつ。

いいわ。
それでいいの。
あなたとならできるかも知れないと、思うから。
あたしは試してみたいのよ。
あたしは美しくなりたいの。
それ以外興味はないわ。
あたしの興味といえば、
自分が美しくなることと、
人を殺すこと
それから・・・・今は
今は・・・・・・

アナタトクラスコト

 

  

「早くお城に入りましょう
温かいお茶を入れますわね」

 

 

<ENDE>2008.9.11