包帯を巻いた細い足が、白く、痛々しく、ぎこちなく歩く

あまりに気にかかるので
ひょいと抱え上げた
自慢の黒髪をも失い、少年のような姿になったリナリーはあわてて
「や」
と呟いたが、かまう事は無い。
「その足につきあっていては埒外があかぬ、翔るぞ!」
と、朗々とした声でうそぶくと大きく踏み出し
びょう
と風を切り裂く
一瞬で後方におきざりにした男どもの声を浴び
抱きかかえた少女の 未熟で華奢な四肢の柔らかさに、ほんの少し胸を梳きながら…

 

 

 

Guardiano -守護者-

 

 

 

ツバメのように速く風に乗る事になれているはずの黒髪の少女が
怖いのか、堅く目をつぶり、頬をわずかに紅潮させながらも私の首に必至にしがみついている
我が胸の中心で、リナリーの小さな心臓がはねるように刻まれているのを感じる
トクン トクン トクン
暖かく生命力にあふれたそれは、私の分厚い闇のマントの中でよどみの無い鼓動となって我が身に伝わり、この呪わしき身のどこか奥のほうをくすぐったく震わせる
とても穏やかでかわいらしい音楽のように心地よく
手のひらに包み込んだ雛鳥のようにこわごわしく
壊れそうで、軽やかで、かよわくも、命に満ちあふれ
何よりも確かな暖かさとなって
私の痛みを少しだけ溶かしてくれる

大切な伴を失った時に私の体からそぎとられたもの
痛みでしばし忘れていた 忘れようとしていた『理由』を
見失っていた感情をはからずも見つけ出して
私はおもわず不敵な笑みを浮かべる
これは命の証だ
他でもない自分自身の
自分が誰かを守る事が出来るという歓び
義務と死命に縛られる事に
これほどみたされ安らかになれる事に少しだけ驚きながら
もはや迷いは無い事を知る

羽根をもがれてなお
前に進もうと彼女はいった
ならば哀しみはやめにしよう
私は守ろう
彼女と、私の仲間が一歩でも先に進めるように
その為に生きるのだということを
それは私の運命だということを
私はようやく 突然に理解できるようになる

小高い丘を一息にこえると、満開の桜が雪のような花びらを私たちにふりそそぎ
その美しさはしばし我が歩みを緩ませる
「もうすぐ夜明けか」
地平の太陽に、闇色の目を細めながら私が呟くと、
恥ずかしそうに顔を赤らめたリナリーが抵抗するように身を軽くよじった
「ね、クロウリーおろしてちょうだい、もう大丈夫だってば、ちゃんと自分で歩くから」
「やかましい。おとなしくしていろ。次の野営までおろすつもりは無い」
「だって、お、重いでしょ?わたし」
「そうだな」
逆毛だった私は紳士らしからぬ返事をし、少しにやりとした
「小鳥よりは、な」
「ヤダ」
少女は少しだけ怒ったようなふりをして、
そうして安心したように、
我が身にまわした腕の力をほんの少しだけ、強めると
その小さな命を 私にあずけた

 

 

-Ende-2009.5.31