「ーで結局。私はエリアーデが庭を散歩している間ずっと、その大きなケーキをもって歩かなければいけなかったのである」
「本当に?それって、大変」
「そんなことはないである。それにエリアーデはとてもうれしそうだったから私は…」
クロウリーの話をきいているうちにリナリーは、一つのことに気がついた。
クロウリーが話をすると、どんな話をしていてもいつの間にか最後には、エリアーデという女性の話になってしまうことに。
そして、エリアーデという名前を口にするたびに、クロウリーの全身に喜びがあふれることにも。 

 

本当に、ほんとうにクロウリーは
その人を愛していたのだ。
愛していたのに…
壊したのだ。

そうして、今もまだ愛している。

 

 

リナリーは、まだ恋をするということがどんなことかわからないが
心のどこかで、信じた。
最後の瞬間
その人(アクマ)はきっと
愛する人に抱かれて
幸せだったに違いない、と。

 

 

 

「リナリー?クロウリー?何してるんですか?こんな夜中に!!」
笑い声に目を覚ましたアレンが、部屋を覗き込んで素っ頓狂な声を上げた。
慌てたクロウリーがベッドから跳ね上がる。
「あ、アレン。起こしてしまってすまないである。これにはー」
「ちょうどよかった!!アレンくんも話しよう。お茶もクッキーもあるよ」
「クロウリー!!レディをこんな真夜中に…」
アレンはクロウリーの顔を見て、言葉をのんだ。
クロウリーの目蓋が、少し赤くなっているのを見て状況を理解した。
アレンにも身に覚えがあったから…
リナリーと一瞬目をかわすと、アレンもニコニコを笑った。
「まあ、その。真夜中のお茶会も悪くないですね!クッキーいただきます!あ、どうせならラビもたたき起こしてやりましょう。ラビー!!」
アレンはいうが早いか、暗い廊下へ飛び出し、ラビの部屋のドアを乱暴にあけた(音がした)
「え?ちょ…アレン?」
開いたドアの向こうで、悲惨な音がいくつか響き、ラビが意味不明の言葉でわめくのが聞こえた。
「いきなりなに?襲撃さ?」
「ラビ起きてください!!おやつの時間ですよ!!」
リナリーとクロウリーはあぜんとして顔を合わせたが、プッっと吹き出した。
「ラビ…かわいそうである」
「本当だね。でもまあ、こんな夜が在ってもいいと思うよ。クロウリー?」
「なんであるか?リナリー」
「眠れないときは、またつきあってくれる?」
一瞬驚いたような表情を見せたクロウリーはすぐさまエレガントに会釈をして同意した。
「……もちろん、喜んで」
クロウリーはそれから真顔で
ありがとうとつぶやいた。

 

 

いつの間にか
暗い空がかすかに白み始めていた。

<Ende>2008.12.07