寒い。
身体が熱を含んで、いつもより重い。
苦労して、ベッドから半身を起こすと、心臓の音を伴っておおいかぶさってくる頭の痛み。
(これは・・)
覚えのある違和感を拭おうと身体をさする、と節々に鋭く痛みが射してくる。喉の奥は切り裂かれたようにズキズキと焼けている。
(もしかして・・・・やってしまった?)
とたんに咳が飛び出し、とまらなくなって呼吸困難を引き起こす。
おまけに大きなくしゃみ。
(やはり、間違いないこれは)
クロウリーは、ううぅと小さく呻くと、よれよれの前髪をかきわけた。
「風邪・・である」

 

 

HONEY HOUR (蜂蜜の時間)

 

 

おはようございます。クロウリー。
朝食の時いなかったから、どうしたのかな、と・・・。え?あれ・・・まだ、ねむってるんですか?
顔、なんだか紅いですよ、クロウリー。ひょっとして具合、悪いんじゃ・・・
あつっ・・凄く熱い。大変だ、熱があるじゃありませんか!
・・とても大丈夫にはみえませんよ。さむくないですか。どこか痛いところとか、気持悪いところとか、つらいところとか、ありませんか?
ああ!起きちゃダメです。いいですから。そのまま寝ててください。僕がやりますから心配しないで。
毛布もう一枚もってきますね。温かくしないと。それに氷枕で頭ひやさなくちゃ。それから・・そうだ薬。婦長さんのところにいって薬貰ってきます。じっととしてて下さいよ!起き出したりしちゃダメですよ!すぐ、すぐもってきますからね!すぐですから!

 

  

 

クロちゃぁーーーん(にへ)
風邪だって?熱あんの?
・・・ありゃま、だいぶ熱いね。
アレンの奴、大慌てではしりまわってたさ。
あいつ?リンクに捕まって缶詰め中。
代わりに頼まれたものもってきたんさ。
まず毛布っと(ばふ)
んで、氷枕、ん。頭あげて(ひんやり)どぉ?気持良い?
そ♪よかった(にんまり)
薬はリナリーが貰ってきてくれるから。
まずは先にメシ食わねえと。
んで、これがジェリー特製のチキンカツサンド。
・・喉痛くて食べられない?そっか、そりゃあ、まいったな。
いや、いいっていいって、これは俺が食うから気にしなくていいんさ。
・・オレンジジュースは飲める?ん。じゃあ、おいとく。
んじゃ、なんか食えそうなもん漁ってきてみるか。
イヤイヤ、クロちゃんはおとなしく寝なきゃだめさ。。
んじゃ、いい子にしてなよーー。

 

 

 

 

 

クロウリー。
入ってもいい?
ラビから聞いたの。具合どうかな?
これ冷たいそら豆のポタージュスープ。こういうものなら食べられるかなとおもって。
ラビは、ジェリーさんに内緒で冷蔵庫あけちゃって、今、皿洗い中
あ、手伝うよ。・・ゆっくり起きようね。
背中、冷えるといけないからタオルかけるよ。
・・・おいしい?・・あわてずに食べてね?
あと、ここにお花飾っておくよ。
これ?ラベンダー。綺麗な紫でしょう、この色好き?
・・・うん、ちゃんと食べられたね・・・よかった。
じゃあ、これがおくすり。はい、お水。
熱が下がるといいけど・・・下がらなかったら注射だって、婦長さんが言ってたよ。
あはは・・・恐くはないと思う。大丈夫だよ。
他に欲しいものはない?あ!シュークリームなら食べられるかな?
わかった♪まかせて。
あ・・・・・咳止まらないね・・・困ったな。
とにかく温かくして寝ていてね。無理しちゃだめだからね。

  

 

 

 

 

 

(どか!)入るぞ
・・・・リナリーにこいつを持ってけと頼まれた。
加湿器だ!しらねえのか?
空気が乾燥するとよくねえんだよ。
・・・風邪にだよ!(どん!)
ったく、気持が弛んでるからそんなもんしょいこむんだ。
だいたいてめえ、体力なさすぎだぞ。
やつらが騒いでウゼエから、さっさと治れ!
昔からなあ、風邪は寝薬って・・・、なに嬉しそうな顔してんだよ!
ち、まったく面倒くせえ(ばた!)

 

  

 

   

・・・・お邪魔します、クロウリーさん。
あの、お、お加減いかがですか?
ええ、と。リナリーちゃんがコムイさんとちょっとケンカになってて、だから私がかわりにここへお伺いしたんですけど、その。
あああ、起きちゃダメ。安静にしていて下さい。
え?いえ。大丈夫です、ちょっとそこで転んだだけで痛くないです、なれてますから、いつもの事なんです。はは・・・
それで・・・実は・・すみませんすみません!ころんだ拍子にリナリーちゃんから預かったシュークリームこんなにしちゃって!!べ、弁償します。私、今から買ってくるので少しだけ、待っ・・・。
・・クロウリーさん・・・?
それ・・どうするんですか・・?
なにしてるんですか?!ダメダメダメ、た、食べちゃダメです、お腹こわします!ああ、そんなにつめこんだら喉につまっ・・・て
・・・全部たべちゃった・・・んですか?
・・・・・・・・・・・・・・・・おいしかった・・です・・か。
・・・いいえ、いいえこちらこそ、ありがとうございます。
・・・・・・・・・・やさしいんですね。
じゃあ、今度はおわびに私がシュークリーム焼きます!
あ、そうよね。・・・買ってきたほうが安全かしら?え?いえ、こっちの話です。そうだわ、みんなで、お店に食べに行くのがいいかもしれませんね。もちろん、クロウリーさんが治ってからの話ですよ。
あ、大変、おしゃべりに夢中になってしまって。疲れるといけないわ。
そろそろおいとましますね。
あの、クロウリーさん・・・・・・本当にありがとう。

  

 

 

 

まだ熱が下がらないみたいね・・やっぱり・・注射しましょう。
すぐにすみますよ。
それとも室長のあやしい新薬のほうがいいのかしら?
・・・・じゃあ、我慢なさい。ちくっとするぐらいよ。
ああ、あの二人のケンカは心配いらないわ。
まったく・・・・室長ったら『AKUMAの血をのめば風邪もなおるかな?』なんていうものだから。リナリーが怒ってしまって。『クロウリーのことなんだと思ってるの?』って、ふふ・・凄い剣幕だったわ。アレンや、リーバーたちからも説教されて、室長は随分しょげてましたよ。
はい、注射おわり。・・・・ほら、たいしたことなかったでしょう?
・・・あなたは怒らないであげてね。室長なりにあなたを心配しているのよ。
それからね、クロウリー。・・・・ゆうべみたいに雨の中をずぶぬれになって歩きまわるようなマネしちゃだめですよ。風邪どころか肺炎を起こしますからね。
知らないと思ってたの?あなたが一人で夜中に帰ってきたのを。
だてに歳を食ってるわけじゃないのよ。 
ねえ、クロウリー。
私はナースで、あなた達の痛みをなおすのが仕事なの。だから、どこかが痛いときは、すぐにいらっしゃい。遠慮しなくていいの。
・・・・アラアラ、それにしても酷い声になってしまったものね。素敵な声が台なしだわ。喉も痛いでしょう?ホラ、アーンなさい。
アーンよ!!
甘いでしょう?アメよ、蜂蜜なの。喉の痛みがとれるわ。
そうね・・・。
心の傷につけてあげる薬はないけど、
私はおばさんだから、頑張ってる子の頭を撫でてあげることぐらいできますよ。
こんなふうに。ね。
・・・・・・・・・・・・・泣き虫ね。クロウリー。
蜂蜜アメ、おいしい?
かじってはだめ。噛まずにゆっくり溶かして味わいなさい。口に入れておけば咳もやわらぐから。
苦いものばかりが薬じゃないのよ。
さあ、わかったら布団にはいって、もうひと眠りしなさい。
熱が下がれば、夜にはみんなと食事ができますよ。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロウリーを横にして、毛布をかけてやると、婦長は上からぽんぽんとかるくたたいた。
「ゆっくりおやすみなさい。クロウリー」
婦長がドアを静かに閉める。

たったひとりの時間が始まる。
けれどもこれは孤独ではない。
(目が覚める時は、闇の中ではない)
血の快楽とは全く別のしあわせが口の中でとける頃に終わる
短い眠り・・

「・・・おやすみなさいである」

クロウリーは、安堵の中で目を閉じた。

<END>

2008.6.14