アレイスターさま
眠ってしまわれたんですの?

居間のソファで無防備にうたた寝するあんたの寝顔をのぞきこみ、
おこさないようにそっと
まぶたにかかる乱れた前髪を指でよけてやりながら あたしは
ふと気まぐれに
その指をすべらせて生え際を伝わせ、頬を撫で、口元に光る牙に触れてみる
そのとたん
あんたのイノセンスが不愉快そうにぎしぎしと軋みをたててあたしをほしがる
アクマの血を 

 

 

  

いつかあんたはその牙で
なめらかで柔らかで 美しいあたしの首筋を喰い破り
あたしを味わう
このうっとりする滑らかな肉体をすみずみまで
にげられないように抱きしめて
容赦なく貪るように
あたしを壊す
そうして
あたしのボディは誰にも触れられないように大気に解け
あたしの魂は神にとりもどされ
アタシという自我は あんたの記憶だけのものになる
あんただけの…

その大嫌いな牙に触れながら ほんの少しだけ想像を巡らせて
あたしは安らかな気分で 口元に笑みがにじむのを感じる
まんざらわるい気がしない事に驚きながら

夜風が冷えてきましたわ
膝掛けをお持ちしましょうね
あたしは 眠っているあんたにむかって呟き
そっとあんたの傍からはなれて歩き出す
堅く冷たい石の廊下の上を心地よい踵を響かせて 

 

 

 

ほんの少し、残念だわ
そうなる前に
あたしがあんたを猟らねばならないのは

 

 

 

 -ende-
L'assassini gentilment -ラストダンスは私と-2009.5.18