A ploaie -雨-

 

 

雨の中で、
クロウリーが何かを見つめている。

アクマの血を浴びるように吸って 逆立った白い髪が
ひどく濡れて落ち
顔にかかって 雫をしたらせている
…まるで普段のシャイな彼のように 哀しそうに

けれども
その眼差しは漆黒に染めたまま
片膝をつき、その両腕でその身の獣の衝動を縛め、
憂鬱そうにマントに顔を埋めて
切り取られた夜の羽根のように闇の形に座している。
金色の瞳は、きっと常人には見ることのできない遠くの風景をとらえているのだ。
彼にしか見えない物を 彼は見つめている
雨に打たれながら
あのときのように…

  クロウリー寒くないですか?
  つらくないですか?
  …雨は好きですか?
  よかったら、ぼくの傘に はいりませんか?

もし
僕が近づいて そうたずねたら
きっと
クロウリーは初めて出会ったときのように僕を一瞬にらむだろう。
そして、機嫌を損ねた蛇のように美しく顔を歪めて、僕にうそぶくだろう

  よけいなお世話だ。小僧。
  …心配いらん。

それから、白い牙をわざと見せながら不敵に笑うだろう。
  

 

 

僕は、知っている。
彼が本当は何を見つめているのかも
なぜ雨にぬれるのかも
なぜ
僕に笑ってくれるのかも

それから 今の僕には
彼のために出来ることなど 何も無いということも
…だから
僕はただ待つしかないのだ。
彼が僕のところへ
僕らのところへ戻ってくるのを

雨が…やむのを 

 

 

 

待つしかないのだ。

<Ende>2008.12.16