悲鳴を上げるように
あちこち強張っている体を引きづりながら通路を歩いていくと 
明るい部屋に 抜けた。
やたらデカい本棚の壁…
馬鹿ウサギがよろこびそうなそいつらを見渡すと 
床の真ん中に趣味の悪い拷問器具がそびえ立ち
凶悪な処女から産み落とされたように
それは落ちていた。
俺の目にしか見えない睡蓮花の群れに埋もれるように。

 

 

Lotusa efiko -蓮雫不濡-

 

 

『神田は強いであるな!』
暢気そうなカスレ声が ふいに記憶の中によみがえる
ああ そういや
下(地面)で一度だけ俺に声をかけてきたっけ
たしか 
もやしと馬鹿ウサギの後ろにノボーっと立ってたヤツだ
妙になれなれしくて 
目をキラキラさせやがって
そのくせおどおどしてるからムカついたのは覚えてる。
名前を名乗ったような気もするが
…なんつったっけな こいつ。
せっかく俺が 先にいかせてやったのに
こんなところに まるでボロクズみたいに転がりやがって…
これだから弱いヤツは嫌いだ
弱いから こんなところでくたばる事になる
…それとも自分から残ったのか?
俺みたいに…
「ち」
舌打ちしながら近づいてみると
地面に落ちたコウモリのように
なにもかもすっかりぼろぼろで 傷だらけで 血まみれで
なのに 
何かを抱きしめるように 両腕をさしのべながら

 

 

「笑ってやがる」 

 

 

それが妙にイラついたから
俺は そいつの腕を掴んで乱暴に引きづりあげた 
     -エリ…あーで…

 

 

ボロクズがなんか呟く
…チ 
なんだよ。
まだ死んでねえのか あんがいシブトイな
うすら笑って呼吸を整えると
苦労してそいつを肩の上にのせ
再び歩きだす。
長い長い階段を見上げ
やけに静かな空気に耳をすますと
かすかに歌が聞こえたような気がする。
崩壊が止まったのだろうか
もやしのヤツ うまいことやれたのか?
それとも…

 

 

 

まあどっちでもいいさ
なんにせよ重要なのは
まだ死んでいないということ
俺も
コイツも 

 

 

別に情けをかける義理はねえ
だが
蓮華の海に埋葬するほど
優しくしてやる義理もねえ

だいたい
コイツに儚気な睡蓮花は似合わねえ
そうだな
どちらかというと
その笑顔のようにあつかましくて
牙のようにトゲのある
ふてぶてしいぐらいまっすぐな真紅の…

 -ende-2009.6.22