a desertacinunilor  -ソラ-

 

 

あのころの僕には、見上げるだけの散らかった空だった
汚いテントをささえるロープで埋め尽くされたり、子供がうっかり手放した風船が飛んでいったり、覗き込む人だかりの頭で隠れた、うっとおしい空。
僕の周りには大勢の人間がいたけれど、僕は居ないのと同じだったから。
たった一人で見上げる空に響く人々の笑い声は嘲笑。叫び声は罵声。
人の底から見上げる空は、馬鹿みたいににぎやか過ぎて、遠くてよそよそしいだけだった。
マナに出会って、彼の背中で見た空は、あたたかくて、なんだかずいぶん近くにおもえた。
くだらないと思ったことが愉快だと思えたように。

彼を失ったとき見上げた空には、なにも…
邪魔なモノはなにひとつなくて、
ただ、雪だけが舞い降りていて。
僕まで真っ白な世界にのみこまれてなくなってしまいそうだった…

今、僕が見ている空は、そのどれでもない。
きっと見上げる空じゃない。
それは選んだ道の上のまあるい空。
いつかたどり着くための地平の先の、青い空。 

 

 

私にとって空は、ずっと戦場だった。
冷たい空気を切り裂いて駆け抜け、敵を壊す。
雲は身を隠す盾。風は加速する帆。
見上げることは無い、冷たい空。
恐ろしい空。

そこにはあこがれも希望もない。
そこには恐怖と苦痛しかない。
ただ勝つ為に空を切り裂く。
ただ、勝つために。
生き残るために。
家に帰るために。
兄さんのところへ戻るために。

今でも私は、たった一人で空を駆け抜ける。
でも本当は一人じゃない。
だって、この空の下にはみんなが居る。
私の仲間が、家族がそこに居る。
きっと私を見守ってくれている。
私と一緒に闘っているんだから
この空は、もうこわくなんかない。

 

 

 

空を見ることに意味なんてないさ
どうせどこにいったって、
立ち上る黒煙と充満する火薬のにおいと愚かしい人間の怒声ばかり。
そんなものでどす汚れた空に何がある?
なにもない。
地上はこんなに愚かな人間であふれているのに。
あそこはただからっぽなだけさ。
遠くの変わらない世界に興味はない。
俺はただ目の前の世界の変わっていく出来事を、刻む。
それだけのこと。

エクソシストになった今も、俺は変わってないし、変わることは無い。

ただ
ただ、なんつうか、ときどきさ。
空を見上げて
立ち上る黒煙にイライラすることがある。
空を見てるんじゃない。
その下で戦ってるあいつらがどうしても気にかかるから。
空の色が気になってしまうんさ。

 

 

 

私が見つめる空は、冷たい石の壁に削り取られた空だった。
人々の憎しみをさけ、誰もいない場所でたった一人で見上げる小さな空。
それはまるで四角く切り取られた陰鬱な窓の壁紙のようだった。

エリアーデとであった時、
二人で空を見上げたあの時。
私は思い出すことができたのだ。
空が青い、ということ。
気がつくことができたのだ。
彼女が笑うと、その青い空が
もっともっと青くて透明になること。

彼女を失って
涙が出るほど広い空の下に這い出た私は
空を見あげるコトがすくなくなった。
だって
私より少し小さな、大切な仲間が居るから。
彼らを見失わないように、彼らの背中を見つめているから。
けれども
いつだって忘れたことは無い。
彼女に教えてもらった空の色を。
二人で見上げた、青くて眩しい空の形を

 

 

 

『それにしても、今日はいい天気ですねえ』
  (みんなが見つめる空は、いつかきっとそれぞれ変わっていくけれども)
『そうね、雲一つないすんだ空、しばらくこうしていたい気分ね』
  (どうか少しでも長く続きますように)
『ホント真っ青でなんだかすっげえ奇麗さあ。ポカポカして気持ちいいし』
  (こうして同じ空の下で同じ空を見ることができますように)
『こんな穏やかな日は久しぶりであるな、このまましばらくお日様の下でひなたぼっこでもしたいである』
(来年もその先もずっと。どうか、ずっと。同じ空の下で)

<ende>

2008.12.31