院長に抱かれた小さなアレイスターは、まだぐすぐすと泣きじゃくっていた。
あれから、発動クロウリーが抱いても、泣き止むことがなく・・
結局、赤子の扱いに手練れた様子の孤児院長が、さんざんにあやして、少しおとなしくなったところだ。
「結局、最後にきらわれちゃったねー。クロちゃん。」
「ち、ちがいますよ室長。四世ちゃんはきっと怒られたと思ったのよ」
「兄さんがあんな危険物作るから、いけないんだわ」
「酷いなリナリー、回収し損ねたジョニーたちのせいじゃないか。
・・・で?とうのクロちゃんは?」
馬車にのせられるアレイスターの見送りに出た一行は、小さな声で呟きあった。
「それが。探してもいらっしゃらなくて」
「別れがつらいんさ。クロちゃんすぐ泣いちゃうもんな」
小さなアレイスターは、ぐずりながらきょろきょろと何かを探している。
院長は、皆々に一礼すると馬車に乗り込んだ。
「クオーイー?」
アレイスターは、なおも外にむかって手をのばしている。
「クロォイィー!」
パタン。
車扉がしまり、馬車がゆっくりと動きだした。

 

 

「名前・・・いいましたね、いま。クローリーって。
・・・きこえたでしょう?」
アレンは、背中を向けたままのクロウリーに声をかけた。
「まだ発動、解かないんですか?」
「余計なお世話だ」
クロウリーは、テラスの手すりに寄り掛かり、空を見つめて動こうとしない。
馬車は地平の彼方へ消えていく。

完全に見えなくなると、ようやく、クロウリーが不機嫌そうに声を発した。
「やれやれ、やっと肩の荷がおりた」
「・・そうですね」
「静かになって、清々した」
「・・そうですか」
「・・・どうせ・・・・すぐ忘れる」
「・・・僕は、そうは思いません」
アレンは、微笑んだ。
「僕らも、あの子もきっと忘れませんよ。
たとえどんなに小さくても、
クロウリーが子守唄を覚えていたように。
僕がマナを忘れないように。
あの子もきっと、素敵な父親の事は忘れないと、思いますよ」
「・・・・ダメな父親だ。
男は泣くなと教えたの・・に

・・・・涙が止まらない」

「・・・いいんじゃないですか?
こんなときは泣いてくださいよ。おもいっきり。
僕は好きだな。
泣きたいときに泣くの。
・・・クロウリーらしくて好きですよ」

暖かな風がテラスを吹き抜ける。
風は、アレンの白髪を吹き抜け、クロウリーの白いたて髪を揺らす。
もうすぐ夏だ。
クロウリーは振り返らずに、泣きじゃくっている。
アレンはそれ以上何も言わず、クロウリーの背中を見守っていた。
ずっと、見守っていた。

<End>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

omake

「あ、今、動いたわ」
「ホントか?」
その言葉に驚いた夫は、そっと妻の腹部に手を添えた。
「ね?」
「ほんとだ。すごいよ!俺たちの子が生きて動いてる」
「いやだ、あなたったら、またすぐ泣く」
「う、うるさいな、泣いてないよ。男が、んなんで泣くかよ。
・・・・・こいつ、生まれたら20世紀を生きるんだなあ。
頑張りゃ、21世紀もみられるんだ。なんか不思議だな」
「ねえ・・・あの唄を聞かせてあげてね」
「うん・・・でも、ちゃんと全部思い出せるかな」
「・・・きっと大丈夫。・・ね。・・・男の子だと思うな」
「分かるのか?」
妻が幸せそうに微笑む。
「なんとなくね・・ものすごく暴れるの、足で蹴ったりするのよ」
「・・・名前おもいついた!」
「ほんと?」
「ああ、素敵な名前だぜ。俺のにしたいぐらいさ。
・・・・ホントに閃いたんだ。きっと、絶対、運命の名前だ」
夫は、噛み締めるように言った。
「アレイスター・・強くて、優しい名前だ」  

<END>
2008.6.5