教団本部は日没の光に満ちていた。
「ラビたち遅いわねえ」
「どうしたんでしょうね、そろそろ夕食の時間ですよ。やっぱりボクみてきましょうか?」
「キミはだめです。許可なしに、ゲートに入ることはゆるされませんよ」
「リンクのケチ!」
「ケチとはなんですか」
ゲートの出口でアレンたちがもめていると、急にツンと清々しい森林の香りがした。
『ただいまである!』
『ただいまっす!』
『た…ただいまさ』
声と同時に、それはそれは見事なもみの木が、ゲートの光の中から生えてきて、本部の中央広場に巨大な森がそびえ立った。
駆け寄ったアレンが、急に立ち止まる。
「お帰りなさい!って…ラビ、クロウリー、チャオジー。どうしたんですか、その格好!」
アレンが驚くのも無理はない。
ニコニコと笑う三人はすっかり汗と雪と泥にまみれて、真っ黒けの泥人形状態になっていた。
迎えに出ていたリナリーも両手でほほを押さえて驚きの声を上げた。
「どうしたの?大変!!今、医療班に…」
「大丈夫さ、リナリー。けがはしてないさ。泥だらけだけど、ちょっと穴堀りに時間がかかっちまっただけさ。」
やれやれ…といいながらラビが泥にまみれたバンダナを外すと、そこだけが白く、汗で輝いていた。
「穴堀りって…根っこごと運んできたんですか?このもみの木」
あきれ顔でアレンがもみの木を見上げる。
「ああ、クリスマス期間中のメンテナンスはクロちゃんが責任もってするってさ」
「年が明けたら、また森に戻すである」
「っす!俺らで、また運びます。そうすれば枯らさずにすみますからね……は、ふ、ブワくしゅん!」
チャオジーが派手にくしゃみをした。
「大丈夫であるか?チャオジー」
「へ、平気っす!ちょっと、寒いですけど、はは」
「で、あるな、ははは。」
すっかり泥まみれで前髪の色もわからなくなっているクロウリーも、どっちが前か後ろかわからないほど泥だらけのチャオジーも、なぜか上機嫌だった。
「ぶるる、すっかり冷えちまったさ。なあ、食事の前に、風呂入らねえ?」
「いいっすね、暖まりたいっす」
「賛成である」
あっけにとられている人々をよそに三人は、広間を後にした。
ラビの叫ぶ声が響く。
『リナリー!ティエドール元帥に、そいつが入るぐらいデカい植木鉢を作ってもらうように頼んどいてくれる?飾り付けは、まかせたさアレン』

「なんなんですか、彼らは?」
リンクのつぶやきに、アレンは困ったように笑った。
「まあ、たぶん、クロウリーが…」
しかしそれ以上は言わず、寄生型の少年はもみの木を見上げた。
「それにしても、見事なもみの木ですねえ。気合い入れてかざらなきゃ…
今年のクリスマスツリーは特別素敵になりますよ、きっと」

もみの木は静かに同意するように、その葉を揺らしていた。
涸れることなく、青々と。

<Ende>2008.12.03