Jeu du loup ーこごりおにー

教団本部における団員ゾンビ化事件記録 (バク チャン記)一部抜粋

 

<ファイル1>

1日目
引っ越しの手伝いの為に本部に出向いた我々アジア支部だが、立ち入った瞬間より、既に異様な事態なのは理解が出来た。
そもそもいつもなら天使のような美しい笑顔で迎えてくれるはずのリナリーさんが、いない。その段階ですでに、わたしの優秀な頭脳は危険を察知したといっても過言ではない。
お陰で、全滅をまぬがれる事が出来たが、
侵入の際に、少人数のゾンビ集団に遭遇し、3人やられる。
噛まれると数秒から数分で反応がおこり、ゾンビ状態となって理性がブッとんでしまうらしい。
ゾンビ化した集団より逃げるうちに、中央庁のリンク補佐官がしたためたとおぼしき経過報告書のきれっぱしを偶然発見する。完全把握にはほど遠いが、あのムカつくコムイ室長の作った残業用ウィルスが事件の発端である事だけは判明。まったくやっかいな薬をこしらえてくれたものだ。
しかし、それが事実であれば、原液を飲んだ根源というべき最初の『親』を見つけなければワクチン製造は難しい。早急な調査が必要だ。
ひとまずゲートより撤退して、アジア支部での戦力立て直しをはかる事にする。
脱出間際、リナリーさんを発見。
嗚呼 なんということだ!
ゾンビ化してなお彼女の美しさは陰る事なく、いやそれどころか
少し伸びたつややかな髪に、かわいらしいマオカラーのワンピース姿でフリルのストッキングが何とも愛らしく、とくに超ミニのスリットが(中略)
彼女のやつれた様子に思わず駆け寄って抱きしめたい衝動にかられるが、かろうじてこらえる。私が彼女のエジキになったら誰が彼女をなおしてやれるのだ。
彼女を救えるのは、この教団きっての秀才であり、稀代の魔術師の血を受け継いだバクチャン以外にはいない。
どうか、待っていてくださいリナリーさん!

 

2日目
とにかく噛まれなければ危険が及ぶ事は少ないと考え、全身を甲冑で包み込んで再侵入を試みる。
確かに噛まれずにすむのはいいが、こちらの動きが鈍くなる分、大集団に襲われると手も足も出ない事が判明。音がうるさい事も考慮していなかった、ノイズマリの率いる群れに目を(耳をか)つけられてたびたび襲撃される。甲冑は脱ぎ捨て、なりふり構わぬ状態で脱出する。恐怖のため、恥ずかしい話だが持病の蕁麻疹を発症し、皆を導くべき私自身が行動不能に陥るという無様な状況となった。
もう少しアクティブに動く方法を考えなくては。
対策を講じるため、短時間で撤退。今までの情報を整理する。

一般団員らの動きは比較的緩慢だが、個体差があるらしい。
特にエクソシストなどを含むとがぜん戦闘能力が上がるので、注意が必要である。さすが彼らの精神的、肉体的強靭さはやはりすごいものだ。普段は頼もしいが、敵キャラになってしまうとこんなに厄介な物かと痛感する。
気になる事が少々。ゾンビの中に、獣人のようなものや、子供が含まれているように思われた。逃げるのに必死で確認した訳ではないが、子供はエクソシトの神田ユウとラビによく似ている気がする。ゾンビ薬の副作用だとすれば厄介である。

 

3日目
一夜のうちにアジア支部の総力を挙げて緊急開発した強化全身タイツ(通称パワードタイツ爆)を身に纏い、再度侵入を試みた。
これは一見普通の全身タイツくんに見えるが、耐圧力300G。防火防水抗菌コート、エアテック仕様で通気性にもすぐれ、この季節タイツいっちょでも風邪を引いたりする事もない優れものである。今後エクソシストたちのインナーとしての利用価値もあるのではないかと思われる。

予想通り、我ら(智医務亜細亜ちいむあじあん)の全身タイツの軽やかな動きについてこられるゾンビは少なく、たとえ噛まれても露出している顔以外であれば歯が通らないので安全だと判明。
しかし、元帥クラスのゾンビはほとんど通常の能力を損なわず、狡猾に行動しているので、遭遇しないように最大限の注意を払う必要がある。事実、クラウド元帥に遭遇したらしいチームの一人からの通信は、悲鳴とともに一瞬で途切れ、我々を震撼させた。
数分後に彼の脱がされた全身タイツとなぜかバスタオルだけが発見され、彼の姿はどこにもなかった。
無惨である。
無防備な姿の彼の身におこる恐怖をおもんぱかり、チームは痛恨にひしがれた。が感傷に浸っている暇はない。
ひたすら戦闘を回避しつつ、情報を収集するうち、医療フロアの病室に残されたゾンビウィルスの薬瓶とおぼしき空き瓶を発見。
おそらくはこの部屋に入院していた何者かが、この中身を飲んだと推察できる。この部屋にいたのが誰か、それさえわかれば活路がみいだせるのだが、今のところ入院リストのような物は発見されていない。急がなければ。のんびりしている場合ではない。
ゾンビたちのテンションは高いが、ほとんど飲まず喰わずで動き回っているため消耗しているはずである。生命の危険が懸念される。他はともかく、ぼくの大切なリナリーさんが心配だ。
それにしてもゾンビたちのテンションの高さは恐ろしい。この原液を飲んだ『親』ゾンビは一体どのようなハイになっているのか想像もつかないがともかく一刻も早く探さなくてはならない。
しかし、気になるのはこの部屋に入室していた患者を拘束していたらしい状況が異常だということ。ベッドごと鎖に縛り付けられ苛まれていた可能性がある。一体どういう理由で、その患者は拘束されていたのだろうか。特殊な状況での治療だったのか、この事件と関係があるのか。拷問か?よほど凶暴な患者だったのか…
…それともなにかもプレイか?
疑問はまったく解決されてはいない。

ファイル2に続く