4日目
なにしろうろうろしているゾンビに追われる時間が無駄だと言う皆の意見をふまえ。
ひとまず、ザコから一網打尽にして隔離しようと作戦にきりかえる事にする。
その為の武器として、ネットランチャーを大量製造する事にした。カーボンファイバーの網ならば、おそらく特殊能力の持ち主以外であればエクソシスト以下ほとんどをホールドする事が出来ると予想している。それをランチャーで撃ちはなってゾンビたちを押さえ込む。
これがもっとも安全で効率のよい方法だと考えた。

大きな収穫と犠牲があった。
収穫は一つ。
食堂付近において、コムイが作ったと想像される使役ロボットの残骸を発見した。すでに何者かに壊滅的に破壊されていたが、その体内にわずかながら生成されたワクチンの残液が発見できた。
残念ながら熱処理済みのため、これを培養してのワクチン製造は難しいと判断される。やはり『親』となるゾンビの生血サンプルは必須だ。
しかし、このわずかなワクチンの残りで、本部の人間をもとにもどす事が可能かもしれない。微量なので、その数は一人か、二人だとおもうが…
誰をもとに戻すのが有意義か、この私の判断が今後の展開を左右する事も考えられる。
リナリーさんをという考えはすぐに払拭した。結晶型の彼女は、現在常にイノセンスを装備しているため、その能力を考えると、捉えるのはとても難しい。
失敗は許されない。とらえやすくかつ能力的に『使える人物』を選ぶ必要も ある。
冷静に判断した結果、ミランダロットーを候補に決定した。ミランダはエクソシストの中でもパワーが少なく拿捕しやすいと予想される。
また元々温厚な彼女なら、エクソシストの中でも比較的捉えやすいだろうという希望的要因もある事は否めない。

犠牲については、多くを語りたくない。が、重要な事なので記載する。
このワクチンの採取にあたり、また二人の仲間が失われた。皮肉な事に彼らの犠牲が貴重な情報の鍵となったのだ、君たちの死は無駄にはしない。(いや、死んだわけではないが)
目撃証言では彼らを襲った者は、あっさりと強化タイツを喰い破り、彼らの首筋を噛んだらしい。そのゾンビは目にも留まらぬほど動きが素早く、白い前髪と獣のような牙と深紅の翼をもった魔物のような姿だったと供述されている。状況からいって元帥レベルの攻撃力だったと予想されるが、その風貌は元帥のどれとも一致しない。むしろ団員の中でもあまり知られない人物と思われた。
…にしても300Gに耐えうるパワースーツを喰いちぎるとは信じがたい。我々のタイツが武器をもたない通常ゾンビに破られる事はあり得ないと想像していたのだが。
私にはピンときた。
もしそれがエクソシスト自身の能力だとしたら…
私の知る限りそれが出来るエクソシトは、ただ一人である。獣のような牙と言うキーワードからも確信できる人物だ。我々のチームがあまり知らない人物である事も納得がいく。
だが、彼は方舟以降目を覚ましていないと聞いてた…。もしや。
それらの雑多な情報から私は一つの仮説を繰り出しつつある。
とても、嫌な予感がしていた。

5日目
危険ではあるが、どうしても確かめたい事があり、再度あの病室の調査を行った。
その結果、薬瓶の発見された部屋の窓辺のすみに、銀の腕輪がおかれているのが発見された。
飾り気の無いその腕輪を手にした私は心底震えた。私が探していたのはまさにこの品物だったのだ。
これが誰のものなのか、私は知っている。
方舟を出るときにリナリーさんが大切に抱えているのを目撃していたからだ。
彼女はこれが彼の唯一の所有物だと言っていた。
やはりそうか。
これで確信が出来た。ゾンビウィルスの素を飲んだのは、いや、何らかの理由により飲まされたのは アレイスタークロウリー三世だ!
なんということだ。
よりによって、『親』が寄生型エクソシストとは!
この結論は最悪といってもいい。なぜなら我々は元帥といえどもイノセンスを奪取出来れば確保は可能だろうと予想していたからだ。
だが、彼の場合は本人そのものが武器である。
彼の戦闘センスの素晴らしさについてはかつてアレンウォーカーから耳にしたことがあった。なりたてのエクソシストであるにも関わらず、レベル2クラスの撃破を容易く行うという攻撃力。
俊敏さにおいてクロウリーはエクソシストの中での最速といっていいだろう。彼の顎の力は、アクマの堅殻をたわいもなく噛み砕く。むろん我々のタイツなどひとたまりもない。カーボンファイバーのネットで耐える事が出来るかどうか、いや、それ以前にその俊敏さにランチャーでの攻撃が追いつけるのか。
また、彼の戦闘スタイルは超白兵型であり、今回のような狭い空間での戦闘ではきわめて有利と言わざるを得ない。実際そのために目の前でなんの反撃もする事が出来ぬままに2人の人間がさらわれている。
さらに言えば、彼の能力は調査がされていない未知数な部分が多い。そもそも羽根があるという情報さえ我々には初耳だ。
このことをふまえ、私は大英断を下す事にした。
拿捕するターゲットをミランダからアレンウォーカーに切り替える。
いささかリスキーではあるが貴重なワクチンをアレンの正常化に託す。
目には目を。寄生型には寄生型を。クロウリーを良く知るアレンならば、彼を捉え、救う事が出来るかもしれない。
決行は明日。
それまでに、我々はタイツの強化とネットランチャーの量産を全力で進める事にした。
我々の未来はアレンウォーカー確保にかかっているのだ。

ファイル3に続く