他のエクソシストじゃだめさ。
引き裂かれたり、切り刻まれたり、粉砕されたり、焼かれたり?
ぐっちゃぐちゃじゃん。
オレ、おっさんのこと前にみたことあるんだ。おっさんがどんな風にアクマを壊すのか知ってる。
血を吸うんだよね。
それなら綺麗に逝ける。
他のアクマが蒸発するまで吸われるのも、みた。
イカしてる。

オレ アンタに 壊されたいの。

 

 

アクマはにこにこ笑った。
しかしクロウリーは、心臓を握りつぶされるような気分になっていた。
屈託のない眼差しに居心地の悪さを感じながらなんとか吐き出す。
「・・・すこし・・・考えさせて・・・ほしいである」
クロウリーがようやく呟いた言葉にアクマは不満をぶつける。
「なんでだよ、おっさんエクソシストじゃん。仕事でいつもアクマ壊してるだろ。簡単じゃん」
「急に言われても・・・すぐには無理である」

無理?何故だ?
目の前にいるのはただの一体のアクマだ。
簡単に壊せるレベル2の・・
だが、
あまりに・・人間らしくてかなしい。
哀しくて、辛い
それになにより、自分の中で静かに閉じたはずの場所に、土足で入られるような嫌悪と恐怖が、己を混乱させていた。
大切なものを他人に強引に奪われるときの、あの苦い感じ・・・
「なあ、おっさん。聞いてるの?」
美麗のアクマが悪びれることなく覗き込む。
クロウリーは懸命に別の言葉を返した。
「・・・・その、おっさんというのはやめてほしいである。私にはちゃんと名前があ-」
「おっさん、いくつ?」
「・・・まだ28である」
「やっぱおっさんじゃん」
めまいがする。
すっかり相手のペースに巻き込まれている自分がもどかしい。
クロウリーは苦悩に満ちた深いため息をついた。
「・・・自爆まで、時間がないのであるか?」
アクマはきょとんとしたが、自分の内部をさぐるように目を伏せる。
「いや、緊急ってほどでもないかな。殺人衝動がおきると自爆するようになってるけど、あと1日ぐらいはいけるとおもうよ」
クロウリーが問いかける。
「なにか思い残したことはないのであるか?『死ぬ』前にやっておきたいこととか」
アクマはしばらく考えていたが、やがて天使のように悪戯な微笑みを浮かべ、クロウリーの銀の腕輪ごとその右腕を掴んだ。
「ある!じゃあ、それやっとこう。おっさんが考えている間に」

 

 

 

  香水 化粧品 羽根つき帽子 刻印付きのハンドバッグ
クロウリーは、アクマに、あちこちの高級そうなブランドショップの中に連れ込まれては、座り心地のいいソファに、居心地悪くすわらせられた。
  レースの手袋 シルクのリボン。
「どうさ、おっさん。似合うと思う?」
アクマは、何度も服を着替え、目につく商品は片っ端から身につけてみせる。
もちろん、その美しい容姿に似合わないものなどない。
  ルビーのリング ターコイズのアンクレット プラチナチョーカー 
しかし、クロウリーはずっと別の事を考えていた。
愛しい人のこと。
生涯でただひとりと思う女性の姿。
エリアーデが、これらを身にまとうたらどんなに美しいことだろうか・・
「・・・・おっさんってば、別の事考えてるでしょ」
アクマは拗ねたように言った。
「へ?あ、な。なんであるか?」
「似合うかってきいてんの!」
クロウリーが正直に「似合うと思うである」というと、アクマは上機嫌で笑った。
その笑顔は愛らしく、なんとも言えず色っぽい。
この笑顔の為に財布をからにする輩は、たぶん星の数ほどいるだろう。
でも、男なのだ(そのうえアクマだ)。
クロウリーは不思議な生き物を見るような気持ちでながめつづけていた。

アクマは、クロウリーが『似合う』といった品物を片っ端から買った。
クロウリーはあわてる。
「あ、あの、私はお金はもってな・・」
アクマは吹き出した。
「だれがおっさんにねだるかよ。エクソシストごときがそんな金持ってるわけ無いの知ってるって。クロス・マリアンも全部たかってたぜ?」
それから店員を振り返ると、すました声で
「○○卿様に御請求をまわしてくださいましね」といった。
店員は不振な様子もなく、頭をさげ、すべての商品を綺麗に包みはじめる。
アクマは少し得意げにクロウリーに笑んだ。
「ね?オレこのへんの店、全部顔パス」
「・・・なるほど」
クロウリーは素直に感心した。
「すごいでしょ?あ、おっさんにもなんか買ってあげよっか?これなんかどお?」
アクマは、ショーケースの中に飾られている純金の腕輪を指差した。
羊歯の透かし彫りが繊細でとても美しく、軽やかだ。
「え?あ、いや!いらないである!!」
「いいっていいって。そんな重そうなのやめて、これにしなよ」
いうが早いか店員に包ませようとする
クロウリーは自分の腕の銀の腕輪をかくすように後ろ手に組むと、慌てて退いた。
「いいんである・・私にはこれがあっているのである」
アクマは、不満げに口をとがらせたが
「じゃ、いいよオレがつけるから」と言い、その細い腕に金の輪を通した。
「お、ある意味おそろいじゃん?ねえねえ、おっさん似合うと思う?」
はしゃぐ様子を見たクロウリーは、さらにさらにため息をつきながら、この日何回も繰り返した言葉を述べた。
「・・・似合うとおもうである」

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