夕方
買ったばかりの美しいドレスに着替えたアクマは楽しそうに公園のベンチの上にたった。
大分おくれて、クロウリーがついてくる。
彼は荷物を抱え、季節外れのサンタクロースにようになっていた。
「ま、だ・・・買う・・ので・・あるか?」
カラフルなショッピングバッグの山をベンチの横におきながらクロウリーはぜいぜいしてたずねた。
アクマが可愛い声で言う。
「少し疲れましたわ、どこかで休みませんこと?・・・なんつってね・・・・座る?」
「ああ、そうさせてもらえると助かるである」
アクマがベンチの横を示す。
クロウリーは何の屈託もなくアクマの横にすわって、一息ついた。
「はあ、やれやれである」
「ああ、たのしかった♪」
「あ、そ、そうであるか。それはよかった」
クロウリーも力なく笑った。
「・・・・が、この買い物はどうするつもりなのであるか」
クロウリーの言葉で、アクマはようやくその荷物の存在に気がついたようにショッピングバッグの山を一瞥する。
「そだね。なんか、買ったらもう興味なくなった。もう時間もねえし」
アクマはウーン、と延びをした。
「そうだ。おっさんの彼女にやるよ。」
クロウリーの顔が急に曇る。
「え?いや・・・その
・・・・もらっても仕方ないである」
「そんなことないって。似合うよきっと。美人なんだろ?
エリアーデだっけ?
よろこぶよ。どんな女でもさあ、プレゼントされるのが大好きなんだぜ」
クロウリーはうつむきながら、静かに微笑んだ。
「そうかもしれないであるが、プレゼントしたくても、もう・・・できないのである」
はしゃいでいたアクマの笑顔が一瞬消えて真顔になる。
「え?・・・」
それ以上の話はしたくない。
クロウリーは打ち消すように身体を起こした
「さあ!あとは何がしたいであるか?」
話を打ち切られたアクマは、少し不満そうに口をツンと尖らせていたが、やがて言った

「・・・・人、殺したい」

クロウリーは、ぎょっとしてアクマを振り返る。
とたんに悪戯そうな笑顔と目があう。
「うそ。まだ大丈夫だよん」
「・・・悪い冗談である」
少し怒ったようにクロウリーは言った。
日没の空が赤黒く染まりかけていた。
風がふきはじめ少し肌寒くなりはじめる。
長い沈黙のあと、アクマは深く息を吸い、低い声で呟いた。
「冗談じゃあないよ。殺すのが楽しいから沢山殺した。今まで数え切れないぐらい殺した。だから成長(しんか)できた。
オレの能力はね、ぶった伐ること。
オレは身体の好きなところを、切れ味のいい、でかい刃物にできるの。どんな堅いものでも切れるんだぜ。
でも気持いいのはやっぱ人間さ。コンバートしたオレが触れた人間は一瞬でスライスされる、皮膚も肉も骨も内臓も。目玉も耳も指のひとつひとつも、面白いぐらいにね。
レベル2になってから、言い寄ってくる男ほとんど殺したし、クロスに捕まる前の日だって8人殺しー」
「やめろ」
クロウリーが叫ぶ。
嫌悪感で口の中が金属のように苦くなる。
イノセンスが、脳髄にささやき、歯がうずき出す。
「・・・聞きたくないである」
アクマは、クロウリーの様子を見て、なんの屈託もなく乾いた声で笑った。
「おっさん。オレの事、人間みたいだとおもってんじゃないの?
オレただの道具なんだよ?人間を殺す兵器だぜ。
だからさ、壊すことに抵抗持たなくてもいいんだってば」
二人は押し黙った。
強い風が強く吹いてクロウリーの白い前髪を揺らし、
アクマの帽子をさらって、遥か向うへ飛んでいく。
その髪がほどけて金色の滝のように溢れた。
アクマは髪をおさえながら、少し気を変えるつもりなのか、女の声をだした。
「・・・帽子、とんじゃった。拾って下さる?」
クロウリーは何も言わず、重たい表情でその場を離れた。

遠ざかるその姿を見送ったアクマの耳もとで、ふいに覚えのある声が聞こえた。
「へえ、おまえ、AKUMAのくせに吸血鬼と仲いいの?」
アクマは、はっとして振り返る。
何時の間にか背後にたっている異様な出で立ちをした小柄な少年達の姿が目に入った。
「ノア様!?」
恐怖しながらひざまずく。
「ちょうどいいや、ちょっとオレらの悪戯(ワルサ)につきあってくんねぇ?」
「大丈夫、すぐおわるよ。ヒヒッ」
その頭を、ぽんぽんと包帯の手がたたいた。

 

 

帽子を拾い、クロウリーが振り返ると、アクマの姿は消えていた。
周囲にはアクマの血の香りが溢れかえっている。
はっとしたクロウリーがベンチに駆け戻ると、金の腕輪が転がっていた。
その美しい模様は、深紅の血で染まっている。
血はその場から始まり、点々と街はずれに向かっていた。
散乱したショッピングバッグのひとつが眼につく。
それには同じくアクマの血で殴り書きされていた。

Kidnap! yo pet!(てめえのおもちゃ いただいた)

「クソ!」
クロウリーは金の腕輪についた血を一舐めすると、一気に跳躍した。

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