「じゃあ、そろそろおいとまいたしましょう」
温和そうな孤児院院長は、必要書類をまとめると、ソファからたちあがり、コムイと握手をかわした。
「よろしくお願いします。院長」
アレンにうながされて、クロウリーもたちあがり、院長の手をにぎりしめる。
「どうか、よろしくおねがいするである!
あの・・・何度も言うけれども、あの子は私がいないと、とても泣くかも知れなくて・・・寝つきもわるいし。でも、怒ったりしないでほしいんである。そ、それにモノをやたらに噛む癖があって、目を離すといたずらもー」
院長はにっこりと笑った。
「クロウリーさん」
「は、はい」
「心配しないで。ちゃんと、引き受けましたよ。あなたがあの子を大切に思ってくれた気持も、ちゃんとね。
・・・あなたはエクソシストなのね?」
「・・そうである」
院長は握りしめてくるクロウリーの手を強く握り返した。
「想像剰りある辛くて危険な仕事だとお察しします。
でもどうか、これからもしっかり戦ってください。
一日でも早く戦いを終わらせてください。哀しい子供たちを増やさないために。それが、あの子のために、あなたができること」
「・・・私にできること・・」

「じゃあ、赤ん坊の処へ御案内します」
と、コムイがドアをあけようとしたとき
ドアが乱暴に開き、ラビが飛び込んできた。
「クロちゃん!大変さ!四世いなくなった!」
「なんだって?」
ラビの後ろでリナリーがおろおろしている。
「ジェリーさんにミルクをつくってもらってる隙に、どこかに這い出ちゃったの!ごめんなさい、今、ミランダも探してくれてる!」

ザッ!!!
クロウリーは翼を広げると稲妻のように疾走した。
アレン、ラビ、リナリーも後に続き、それぞれ通路を走り抜けていった。

 

「クロウリーさん、あれ!」 
談話室の入り口でミランダが硬直していた。
「居たか!?」
ミランダが指差す先に小さなアレイスターは座っていた。
その手には、真っ赤なキャンディが握りしめられている。
「AKUMAの血!?」
コムイが倒れたときに、床に落ちたキャンディだ。
全部、回収したと思ったが、ソファの下にまだ残っていたのだろう。
「っ喰うな!」
「あむ♪」
クロウリーが叫ぶのと小さなアレイスターがキャンディを口にいれたのは同時だった。
「きゃあああ」ミランダが叫ぶ。
「クソ!!」
クロウリーはアレイスターにとびつくと、逆さにしてゆさぶった。
「出せ!吐き出せ!」
アレイスターは驚き、いよいよ口をとじてしまう。
「っちぃ。冗談じゃないぞ!」
舌打ちして人さし指を割り込ませ、乱暴に小さなあごをこじ開ける。
小さなアレイスターは驚いて全力で口をかみしめた。
ギリリッと音を立てて、小さな歯がクロウリーの指に、思いきり食い込む。
皮膚が食い破れて血がしみ出す。
「くっ、頼むから!出してくれ!!」
指の先に堅い物が当たる。
クロウリーは全力で指先に力を込め、小さな丸い毒物を挟んで引きづり出した。
ポトリと床に落ちたキャンディは、だ液にまみれていたが、まだ溶け出した様子はない。
ほっとしたクロウリーはアレイスターを抱いたままへたり込こんだ。
「けほっげほ」
ちいさなアレイスターはしきりにむせると、火がついたように泣き出し、クロウリーの腕から逃れようと身をよじった。
「クロちゃん!」
「クロウリー!!」
みんなが、駆け付けると。
クロウリーは「・・・大丈夫だ」と笑った。

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