あの夜の望月が痩せ細り、
闇に死に、
そして微かに蘇るころ
いくら時を経ても
この痛みになれることは、きっとない けれども

だいぶ、
なれたこともある

街を歩くこと
みしらぬ人と話をすること
少年達を追いかけること
見失わないこと
それから・・・・・
顔をあげて進むこと 

 

 

Turn-Down&Stand-Up (口笛歌)

 

 

クロス元帥の消息は相変わらず不明・・・・
クロウリー達が町での情報収集から帰ってくると、宿で連絡番をしていたリナリーが、いつも以上にニコニコと出迎えてくれた。
「クロウリー。ちょっと」
「え?あ?」
クロウリーは、また何かいけないことをしてしまっただろうかと、一瞬動揺しながら返事をした。
仲間と行動を共にするようになって半月ほどがすぎた。
戦うことは辛い。
戦っても戦っても苦しみはぬぐわれない。
でもアレンもリナリー達も優しく、いつだって、温かかった。
乱暴に扱われることはあっても、冷酷に扱われることは一度もなかった。
最初はその距離感がつかめなかったクロウリーも、だんだんなれてきた。
ラビがブックマンに、パンダパンチを浴びせられるのも目撃したし、
ラビがアレンに無茶ぶりをして、リナリーの雷が落ちるのにも居合わせたし
ラビがうっかりリナリーを泣かして、皆がボロクソに批難するのも体験した(このときは自分も参加した-笑)
・・・・自分はまだリナリーに踵を落とされたことはないし、皆に罵詈雑言を浴びせられてもいない。
しかし、そうされたとしても辛くないだろう、と感じていた。
故郷にいたときの迫害とコレはまったく違うのだ、と理解していた。
それでも、信じられないような失敗をして皆に迷惑をかけることはしばしばある。
だから名前を呼ばれると、少し緊張する。

リナリーは、宿の部屋のテーブルのうえに、丈夫な油紙にくるまれた包みを大切そうに乗せた。
包みは封蝋がされ、ローズクロスの印が押されていた。
教団からの荷物らしい。
「ね、これあけてみて?」
「え?な・・なんであるか?」
「いいから、早くあけて」
「あ!とどいたんですね。ジョニーやることが早いな」
いちはやく察したアレンが、クロウリーの隣にやってきて、背中を軽く叩いてやる。
「ホラ、クロウリー。大丈夫ですよ、あなたあての荷物ですから、あなたが開けないと。早く皆にみせて下さいよ」
「あ、ああ」
アレンにいわれて、少し安心したのか、クロウリーは細い指でパリパリと包みをあけはじめた。

 

 

 

 

 

「班長ぉー、ようやく見つけましたよ。クロウリー城の8年前の書類。
棄てていいっていわれたもんだから、シュレッダーにかけちゃって焼却寸前でしたあー。タップに手伝ってもらってなんとかつなぎ直しましたよー」
徹夜明けでよれよれのジョニーが、つぎはぎの数枚の紙を振り回しながら リーバー班長のデスクにやってきた。

これまた徹夜続きでむさ苦しい出で立ちのリーバーは、デスクの上にのせられたラージカップに刺さったストローを不自然な体勢からくわえてジュルルルッとレモンソーダ水の最後の残りを吸い込んだ。
恐ろしい速度で右手を動かしながら計算中の怪しい化学式から 目をはなすことなく、あいている左手を差し伸べる。
「っおお。すまんな。これで8年越しの報告書がまとまる。まったく、先任の残してくれた仕事までやらにゃならんのだからかなわんな、おう、くれ」
すかすかと左手が空を掴む。
「吸血鬼と噂されてた城主の孫が適応者で、うわさの原因だった食人花がイノセンスで、しかも吸血鬼みたいにAKUMAの血を吸う能力だなんて。なんだか不思議な因縁っスよね」
ものすごく近い場所からジョニーの声がする。
「まあな。とにかくたすかった。頼んでる残りの加算書がすんだら仮眠とっていいぞジョニー。ほい、書類?・・あ?」
左手をのばすが、書類が一向に手に触れない。リーバーは、ようやく右手を動かすのをやめ、ストローを口からはずし、目をジョニーの方にむけた。
にこにこと微笑んでいるジョニーの顔がアップで映る。

「なんだ?」
「そのアレイスター クロウリーって吸血鬼の孫。このままクロス元帥捜索にくわわるってきいたんですけど。これからの捜索はきつくなるだろうし、まだ慣れないから危険も多いだろうし、戦闘だって増えるだろうし、身を守るためにも団服が必要っスよね?早急に、最優先に必要!で す よ ね?」
徹夜続きでやつれ果てたジョニーの頬に妙な血色(つや)が乗りはじめていた。
どうやらジョニーのコスチュームメイク魂に火がついてしまったらしい。
「う、あ・・まあ。たしかに」
ジョニーの笑顔を見たリーバーは気押されてつい、うなずいてしまった。
「よっし、じゃあ、オレとにかく最優先でデザイン考えます。服が出来上がったらすぐ送れるように室長に手配してもらって下さい!!吸血鬼かああ、ワクワクする!」
「あ、おい!!」
二の句を継ぐ間も無くジョニーは飛び出していった。
ひらひらと書類が舞い落ちる。
「やれやれ、わかりましたよ。
ヒラのお前の命令を、班長の俺が、室長の巻き毛にお願いすればいいんだな?」
リーバーはごしごしと無精髭をこすりながらぼやいた。

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