「いったいそれに何の意味がある?」
髪を逆立てて陰鬱そうなクロウリーが、答える代わりに尋ねた。
…いつもと違うな
とラビは気がついたが、気がつかないふりをしてにこにこ笑う。
「意味?つうか。まあクセみたいなもんさ。ブックマンの習性みたいなもんで、なんでも記録してとっときたがるのさ。意味があると断言するつもりはねえけど…。ないとも言えねえだろ?
クロちゃんはいくつ壊した?
俺、25体。この前は俺の勝ー」
「ゲームじゃない」
短すぎる言葉で吐き捨てると、クロウリーはちぎれたマントを翻して後ろを向き、その場を離れた。

A Steaua -星-

 

 

遠ざかっていくクロウリーの背中をみつめながら、ラビは小さく舌打ちした。
「いっけね。やっちまったみたいさ」
クロウリーの様子が、強張っている理由はわかっている。
先ほどまでの戦闘のせいだ。
それは夕暮れの人の多い街中で突然おこった戦闘で、アクマの数も多かった。
ラビも闘うことに手一杯で、彼の傍を離れざるをえなかった。
『人間の姿をしたアクマ』を『発動した姿のクロウリー』が襲った時…
その咽を喰いちぎり、血をすする時
周囲の『人間たち』がどういう反応を示したかは、当然想像できる。
クロス元帥探索の旅に、クロウリーが加わってまだ数週間。
俗世に出たばかりで、エクソシストとして闘うことにも日の浅いクロウリーには、それはかなり残酷な状況のはずだった。
戻ったラビはその場に居合わせてやれなかったことを悔やんだ。
気分を変えようと、とっさにふった話題だったが、あまりよいチョイスではなかったかもしれない。
ついいつものクセがでちまったさ…
ラビは鎚をホルスターにおさめると、クロウリーの後をおった。

 

 

「あ、いたいた。探したさークロちゃん」
クロウリーは、街の中央にある教会の鐘楼の先端にとまっていた。
戦闘が終わってだいぶ時間が経つのに、彼はイノセンスの発動を解こうとせず、白い牙をさらして、異形の姿を保っていた。
…今、発動を解いてしまって優しい自分に戻ることが怖いのだろう。
じっとうずくまって風に吹かれている様は、まるで不吉な大鴉のようで、どことなく寒そうだ。
ラビはいつもの飄々とした調子を崩さずにつぶやいた。
「さっきはごめんなクロちゃん。いや、なんつうか…けしてゲームや遊びのつもりはないんさ。からかった訳でもねえし」
「からかわれたとは思っていない」
クロウリーは、ラビを見ずにぼそりとつぶやいた。
「私には、倒した数は意味を持たない。…それだけのことだ」
「え?」
「これから先、何体のアクマを壊そうとも、私にとっては『たった一人』を壊したことの理由にしかならない。始まりの続きでしか、ない。
だから数は『1』だ。いつでも。自分がどうなろうとも、何があっても」

それから聞こえるかどうかわからないほどの声で
「すまん」
といった。
「今は虫の居所が悪い」
彼はそれっきりだまりこんだ。

  

 
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