Growing Table 

 

「朝からなに?このメシの量」

デビットが呆然としてつぶやいた。

「ヒイ?これ全部で一人分?」

ジャスデロも信じられないという様子で、すこし涙目になっている。

 

方舟の中で

吸血鬼みたいなエクソシストと闘って以来、
ようやく身体が癒えたばかりの双子は、目の前の食卓の大皿を気色ばみながらみつめていた。 
ノアの大きな家族テーブルの双子の椅子の前に、山盛りのマッシュポテトやミューズリー、熱々のオートミール、トーストやコーンブレッドやマフィンやソーセージやベーコンやチーズやスクランブルエッグがところ狭しと用意されている。

「…よう、双子。生きてた?」

すぐ傍の椅子からティキの声がした。

彼は一足先に食卓に居て、食事も半分以上は進んでいる様子だ。

だが、どうもいつもと様子が違う。

せっかくの美貌に影がさしていた。

元気の無い薄笑いをうかべて呼吸も浅い。

無理も無い。この食事の量を平らげられるはずもなく…

それでもかなり果敢に闘った様子が見える。

喰えるときには喰えるだけ喰っとくはずの快楽主義者が、かなり満腹の様子だ。

デビットは冷ややかに彼を見下ろした。

「テメエこそ死んだって聞いてたぜ馬鹿ティキ」

「ねえこれどういう事?」

ジャスデロが無邪気に大皿を指差して問う。

ティキは、ミルクを吸ってすっかりふやけたカラフルなシリアルを憂鬱そうにかき交ぜながら小さな声で説明した。

「みりゃわかんだろ?フル&フルイングリッシュ ブレックファーストってやつ。伯爵のお好みで、これから当分。うっぷ。がんばれよ。それとりあえず喰ったあとに、アップルパイのアイスクリーム添えもくるぜ?」

「残さずにちゃんと食べないと元気になれませんヨ

テーブルの果てから伯爵の声がした。

その声を聞いた双子はちらりと千年伯爵を見る。

「いたんスか」

「もちろんでス」

伯爵はと言えば、見ただけで胸焼けがしそうなフライドポテト&ベーコンの山を平らげたばかり。紅茶に死ぬほどの砂糖をぶち込んでいるところだった。

 

 

「え?ロードもこれ食べたの?」

「ロードの奴は学校に遅刻するって理由で逃げた」

アクマの給仕がやってきて、ティキの前にバターのどっさり乗っかったトーストを置く。

ティキは貧血を起こしかけていた。

「…デビットぉこれベーコンにメープルシロップかかってる…」

ジャスデロが怖いものをみるようにソーセージとベーコンの皿を覗きながら囁く。

「げ、キモい」

「まあそういわずに試してごらなさイ。美味しいんですカラ」

ティキが、肯定とも否定ともつかないため息をついた。

二人は椅子に座ろうとせず後ずさりした。

「イヤなんつうか俺らまだぜっんぜん食欲がなあ?」

「ヒッ そ、そう。病み上がりだしぃ。ゲホゲホ」

伯爵は、オートミールに蜂蜜を注ぎながら憂意を含んだ声を返してきた。

「いけませんねエ、たくさん食べて体力をつけないと、もちませんヨ?これからやってほしい仕事もどーっさりあるんですかラ。

せめて飲み物だけでも飲んでおきなさいネ」

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