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「ボルト、おそいなあ」
よく太ったバッタを3匹ほど捕えた小猫は、獲物を芝の上に並べてすわりこんだ。すでに日は傾き初めて、赤く染まろうとしている。
せっかくおいしいもの、つかまえてあげたのに。たべちゃおうかな〜?おなかすいたし。またどこかで、ねてるのかな?まいごになったのかな?
もおおう。ボルトったら、せわがやけるんだから。さがしにいかなきゃね。
小猫はフカフカのしっぽをぱたんぱたんさせながら考えをめぐらせていたが、一番丸々として汁気のありそうなバッタをくわえると、大門に向かった。

 

 

-冒険屋ボルト・クランク-
名前のとおり、いかづちの素早さで、その男は飛びしさり、広間のすみの円柱にかくれていた兵士を一人なぎ倒した。銃を奪い、撃ちつづける。一発の弾も無駄にならない。そのまにもつかつかと無防備に、もうひとりの兵士に近づくと右手で一打。取り落としたショットガンを空中でつかみ上げ、煥発をおかずに狙いを定め3発!窓が吹飛び、数人の兵とともに天蓋を飾るビロードがぶらんと下がって落ちた。
そのとき
「動かないでいただきたい!」
少女のような声で、小姓姿の若者が鋭く宣した。
「ボ、ボルト殿・・・」
かすれ声がわずかに聞こえた
その右手に握り締められた剣の切っ先には、深手を負って血の気の失せたマッキノン卿の喉笛があった。手当もされず、あるいは拷問を受けたのか、衣服の大部分が血に染まっていた。
「そのまま銃をすてていただこう」
ガシャ、カラララン・・・躊躇のかけらもなく、ボルトは手をあげる。
「ポケットを調べろ!」
促された兵士が、おそるおそる緑のコートに手を延ばしポケットをまさぐる。
右側から大きなネジが一本。左のポケットからは干した小魚が数匹・・・。
それだけだった。
若者は不愉快そうに、ネジと魚をつまみあげたが、すぐさま興味なさそうに投げ捨てた。
「あれはどこにある!」
「・・・なんのはなしだ?」
みじろぎもせずにボルトが聞き返す。
「とぼけるな。死者をもよみがえらす反魂の秘薬だぞ!この間抜けにわたせと言われたはずだ」
「ふ・・・」ボルトはあきらかに笑ってみせた。
「そこまでしっているなら、自分でさがせ」
ぴり!と美しい若者のこめかみに青筋が浮いて出た。
「吐かせろ!殺しても、かまわん」
「しかし、王の行方は?」
美しい若者は顔を歪ませて、吐き捨てた。
「死に損ないの王など用はない。私が欲しいのは、永遠だ」


 

 

パチパチ・・・
 まどろみの中で。
 ききなれぬ、だが、きいたことのある小さな音をとらえる。
 切れ長な金色の瞳を、はっと見開き、身体を起こす。
 かぎなれた煙のかおり。だが時期ではないはずだ。
 燃えるべきではない場所で、燃えるべきでない季節に炎が上がっている-
 塒を飛び出し、すぐさま現場へむかう。
 麦芽を暖めるために広げられたのピートがゴウと音をたてて燃え上がっている。
 天井を張っているはずの高圧線が退き千切れてぶら下がり、バチバチと火花を上げている。
 かたわらには侵入者の黒こげになった死体が転がっている。
 ばかな連中だ!電圧線にちょっかいだしたのだ。
 このままでは天井に火が届く・・・ちい!
 火消しは専門じゃない。
 柱をよじ登り、荷だなの上につかえるものがないかどうか、ざっと見渡すが水などどこにもない。
 どうする?
 おちつけ。と頭の中で低い声が響いた。
 つかえるものがあるはずだ、おちいてさがせ!
 コルクの箱、霜避けの岩塩、煉瓦。
 岩塩だ!
 力任せに岩塩の袋を切り裂くと、ザラアア・・・と、とうめいな塩粒が炎の上に降り注ぐ。
 空気を奪われた炎はやがて窒息死し、いぶりくさい匂いがたちこめ始める。
 煙に反応したのか、ようやく耳障りなヒジョウベルがなりひびきはじめた。
 宿直の爺さんたちがあわててとびだしてきた。
 もう大丈夫だ。
 根城にもどって、夢の続きを探そう。
 塩まみれの冒険屋は
 寝床に1本だけ転がっている古いネジを大切そうに抱え込むと、ふたたび眼をつぶった。

 

トテトテトテ・・・月の明りで館の床がキラキラひかっている。
小猫はシンと静まり帰った広間のまんなかで、周りをみわたした。
『ボ〜〜〜ルト〜〜〜〜?』
返事はなし。
においはするんだけどなあ。
犬ほどはきかない鼻をくすらして、もう一度においをかいで見る。
鉄のにおい。血のにおい。ボルトのにおいもする、それからおさかなのにおい。
ん?おさかな?
トテトテトテ・・・
椅子のしたを潜ったところに、おさかなが4ひき落ちていた。
あ、ボルトのにおいもする。
ハグハグハグ・・・
小猫は食後の髭をかるくふきながら、ヂッとかたわらのモノを観察した。
おやあ?
それからちかよって、手でチョっところがしてみる。
ネジだ!!ボルトの落し物だ。ペろり・・・うえ〜〜〜。にがい。
でも・・・
『おいしいの?それ』
『まあな』
ネジがなくて、ボルトおなかすかせてるだろうなあ。けっきょくバッタさんは食べてしまったし、これをもっていってあげようかな?
小猫は、はぐ、とネジをくわえた。それからもういちど、冒険屋のにおいをたどり始めた。


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